近年、バス運転手の人手不足が深刻化していることをご存じでしょうか。この問題はニュースとして取り上げられることも多く、実際にバスの減便を余儀なくされた自治体もあります。そこで本記事では、バス運転手の人手不足が発生している原因や、人手不足解消のためにできる対策を紹介します。
バス運転手の人手が不足している原因
バス運転手不足が深刻化している背景には、バス業界全体を取り巻く環境の変化、日本の労働人口減少、複数の事故による業務イメージの悪化という3つの問題が存在しています。
環境の変化
まず、バス運転手の不足は、2011年の東日本大震災直後に顕著となりました。震災復興のためにトラック運転手の待遇が改善され、職業運転手がトラック業界に流れたため、バスの運転手が減少したのです。
さらに、2014年には製造業の国内回帰などにより職業運転手全体が不足する状況が続きました。これらの環境の変化が、バス運転手不足の一因となっています。
労働人口の減少
また、日本全体の労働人口減少もバス運転手不足の一因です。日本中で人手不足が問題化している状況で、運送業界もその影響を受けており、今後さらに他業界と人材を奪い合う状況が懸念されています。企業は積極的な対応が求められており、運転手の確保が急務となっています。
業務イメージの悪化
さらに、バス運転手業務に対するイメージが複数の事故によって悪化している点も問題です。例えば、2012年に関越道で発生した高速バス事故では、運転手の労働環境が過酷であることが明らかとなりました。また、2022年の幼児置き去り事故では同乗者の不注意が報道され、バス運転手のイメージが損なわれました。
2024年問題も運転手不足に拍車をかけている
2024年問題は、日本の自動車運転業務における労働時間の規制強化に関連する問題を指し、バス業界に深刻な影響を与えています。2024年4月に施行された改正労働基準法により、自動車運転者の年間時間外労働時間が960時間に制限されました。
従来、年間の時間外労働に関する規制はなかったため、この制限はドライバーの労働環境に大きな変化をもたらしています。さらに、勤務終了後から次の勤務開始までの休息時間は基本的に11時間に拡大され、最低でも9時間の休息が必要とされています。
この改正は長時間労働を防ぐ意図があるものの、特にドライバーの労働時間管理が難しくなるため、人員不足を抱える企業には大きな負担となっているのです。また、上記の法改正では連続運転時間も制限され、最大4時間とされました。
これにより、4時間ごとに30分以上の休憩を義務付けることになり、運行スケジュールの見直しが必要となっています。これらの規制強化によって、バス事業者は労働環境改善のための努力が求められる一方で、すでに不足している運転手の確保がさらに困難となることが懸念されているのです。
特に、既存の運転手の労働時間の調整が求められるため、従来の運行体制を維持することが困難となります。場合によっては、運行本数の削減や路線の廃止といった対応を取らざるを得ない企業が増える可能性があります。
バス運転手不足解消のための対策
バス業界では深刻な運転手不足に対し、様々な取り組みを進めています。
人材の社内育成
まず、新卒を採用し、社内で運転手として育成する方針が取られています。従来は、トラック運転手などの経験者を採用することが多く、新卒の採用は少ないものでした。
しかし、現在は大型二種免許を持っていない新卒者も積極的に受け入れ、会社負担で免許取得を支援する制度を設ける企業が増えています。高卒者は大型二種免許を取得可能な21歳まで営業所や整備所で補助業務に従事し、接客や整備のスキルを身につけることで、運転手としての育成を進めています。
女性運転手の採用の強化
次に、女性運転手の採用も強化されています。以前は男性の比率が圧倒的に高く、女性向けの制服や更衣室が不十分だったため、採用しづらい環境でした。しかし、今では人手不足の影響から、女性が働きやすい職場環境を整え、設備投資も進められています。これにより、女性の採用も促進されています。
定年延長・再雇用
また、定年延長や再雇用の活用も行われています。定年を65歳まで延長し、退職後も働き続けられるよう再雇用制度を導入することで、経験豊富な人材を長く確保できる仕組みが整備されています。
体験会・見学会の実施
さらに、バス運転体験会や職場見学会の実施も注目されています。これにより、バス運転手の仕事を多くの人に知ってもらい、興味を引きやすくしているのです。
参加者は、運転手の職場を見学することで仕事の理解を深め、実際のバスの運転や進化した安全装置を体験できます。安全性の向上を感じ、バス運転手としての仕事に前向きな意識を持ちやすくなることが期待されています。
まとめ
近年、バス業界で運転手不足が深刻化しています。その背景には、震災復興による運転手流出や労働人口の減少、事故による職業イメージの悪化があります。さらに、2024年からの労働時間規制強化も問題に拍車をかけているのです。対策としては、社内での人材育成や女性運転手の積極採用、定年延長と再雇用の推進などが行われています。また、体験会や見学会の実施で職業理解を深め、労働環境の整備も進められています。